『モン・サン・ミッシェル』その名前を耳にした瞬間、海に浮かぶ奇跡の絶景が瞼に浮かんでくる。ただ、その美しさの感じ方は人それぞれ。「おとぎ話に登場するお城」「修道士が暮らす聖域」「うらぶれた廃墟」等々。なぜ、『モン・サン・ミッシェル』は、それほど多様な美しさを人々に与えているのだろう?
その答えを探しに家族で訪れてみたが、未だに正解は見つからない。大天使ミカエルのお告げにより、海上の岩山の上に立てられた小さな聖堂から始まり、祈りの修道院、戦うための城壁と要塞、海の孤島の監獄へと・・・。歴史の流れと共に、常に数奇な運命に翻弄され続けてきた『モン・サン・ミッシェル』。
ただ、私たちがこの旅で出会ったのは、紛れもなく、神への祈りを捧げる場として建てられた『モン・サン・ミッシェル』。そして、そこは海の孤島に建つ、天使が舞い降りた修道院だったことは間違いない。
⑰ 夕食後、モン・サン・ミッシェルの夜景を見に行った。観光客が去った島は、
一転して静寂の時に包まれていた。
⑱ 昼間、世界中の観光客で溢れかえっていたメインストリート(グランド・リュ)も、ご覧の通り。まるで中世の巡礼道に迷い込んだような錯覚を覚えた。
⑲ モン・サン・ミッシェルの印象的なシルエット。 時とともに移ろうこの奇跡の絶景を、永遠に忘れることはないだろう。
⑳ 翌朝、始発バスが動き出す前に3度目の島に向かった。山頂に立つ修道院付属教会のミサに参列するためだ。その時間に島へ歩いて向かう者は、他にはいなかった。8月中旬だというのに、とても寒い朝だった。
㉑左) 島のメインストリート(グランド・リュ)も、ご覧の通り静かな朝を迎えていた。正面城門(王の門)の上の、フランス国旗とマリア像に朝の挨拶をして城内に入った。ボンジュール!
㉒右) 山頂に向かってまっすぐに伸びる階段が、我々を誘っていた。左の赤い窓は、島で唯一の郵便局。坂の途中の看板は、島内の老舗ホテル「テラス・プラール」の入り口。
㉓左) 山頂付近の城壁から、サンマロ湾にゆっくりと昇る朝陽をしばらくの間眺めていた。いつまでも飽きることはなかった。
㉔右) 隣の教会の屋根では、島のカモメたちも同じ朝陽をじっと動かずに眺めていた。朝の祈りを捧げているのだろうか。
㉕左) 大聖堂へと続く参道。右下の大きな岩は、この修道院が岩山の上に建てられていることを無言で示していた。反対側の小さな扉は、島に13人いる修道士と修道女達の住まいの入り口。
㉖右) この大階段を上りきると、いよいよ大聖堂への入り口。
㉗ ここが天上の祈りの場「修道院付属教会」の中央祭壇。上に上にと、まるで天に向かって伸びるような高い柱と天井。この静寂な空間に響きわたる修道女達の澄んだ歌声は、まさに天から差し込む光のようだった。この日のミサに参列したのは、7人だけだった。
㉘ ミサを終え教会の北側から外に出ると、美しい回廊がある。ここは修道僧の祈りと瞑想の場。修道僧達は読書に勤しみ、神の言葉を心に刻んだ。連続するアーチは、天と地を結ぶ空間を表現しているのだろうか?
㉙左) この部屋で修道僧達は沈黙の内に食事を摂った。その間、一人の教士がその日の殉教者の名を読み上げ、その後、聖人伝を朗読していたらしい。壁際の59箇所の小窓から差し込む朝の光が幻想的だった。
㉚右) 教会を出て西のテラスから振り返ると、すっかり陽が昇り、青空を背景に、尖塔の上に立つ金色の大天使ミカエルが光っていた。
㉛左) 教会を出てからも、娘の瞑想はまだ続いているようだ。誰もいない長い階段をひとりで下りていった。
㉜右) つい先程まで祭壇の前で祈り、澄んだ声で聖歌を聴かせてくれた一人の修道女が、我々の後ろ姿を見守るように出口までずっとついてきた。
㉝ 修道女の歌う聖歌と祈りに心を洗われた我々は、目的を果たせた満足感と共にモン・サン・ミッシェルを後にした。この神秘の修道院は、我々にとって間違いなく聖なる祈りの場所となった。徐々に遠ざかる壮大な風景を心に焼き付けて、この旅を終えよう。
4号棟Yさんが地図を作って下さいました。